平成13年4月、日本中の新聞・テレビなどに報道され、大反響を巻き起こした稲毛新聞の特ダネ「5千万円宝クジ事件」の真相を紹介してみたい。 平成13年2月のある日の夜、筆者は友人と待ち合わせるため、行きつけの飲み屋で飲んでいた。 ふと、近くで2人の男の交わす会話が、聞くともなく耳に入った。 「そう言えば、俺、えらい損をしちゃったよ。高額の宝クジがたっていたのに、もらえなかったんだ」 「どういうことなんだ?それは…大事件じゃないか」 さらに偶然なことに、この愚痴?をこぼしていた山川さん(仮名)は、日ごろお世話になっている知人でもあった。 さっそく山川さんの席に移って「山川さん、今の話、どういうことなの。本当に宝くじが当たっていて、その高額当選金が不明のままもらえなかったっていうなら大事件じゃないか」「もう、済んだことだから諦めたよ」と、彼は話すのを渋っていたが、「高額当選券のレシートが証拠としてあるんだから、コンピュータに記録が残っている筈だ。私が第一勧銀に取材してみます」という姿勢に、山川さんは取材協力を約束、高額当選のレシートのコピーを渡してくれた。 早速、東京大手町の第一勧銀本店を訪ね、レシートの日付や時間番号をもとに、高額当選とは一体いくらなのか調査して欲しいと依頼した。 「金額は調べれば分かるが、第三者のあなたに教えるわけにはいかない」と第一勧銀の冷たい反応。 「それじゃ直接、山川さんに、いくらの当選金額であったか連絡してもらいたい」「ハイ、一週間くらい調査する時間が必要だが、分かれば山川さんに連絡します」「それにしても山川さんに菓子折りや8万円とどけて知らんふりしているのはおかしいではないか」 「それは存じませんが、本人から申請がない場合は原則として調査しないことになっています」 後日、山川さんから電話が入り「五千万円当たっていた」と報告があった。 これは大事件だと感じて、徹底的に調べた。その取材先は総務省、第一勧銀はじめ、東京都公債課など10数カ所に足を運び、約2ヶ月間取材した。そして稲毛新聞平成13年3月号に掲載する予定になっていたが、山川さんの家族から「恥ずかしいから報道しないで欲しい」といわれ、やっと説得し4月号の1面トップで「消えた5000万円ジャンボ宝くじの怪」という見出しで報道した。 毎回購入していた 宝クジマニア≠ニ言ってもいい山川さんは、宝クジが発売されると、まとめて100枚とか200枚買うのを常にしていた。その時も発売された「サマージャンボ」を100枚まとめて買った。そのサマージャンボ宝クジの抽選は平成12年8月16日に行われたが、当り≠ノ縁遠いと決め込んでいた山川さんは、22日になって「そうだ、この前の宝クジを調べてもらうのを忘れていた」と、宝クジを買った稲毛海岸の「万葉軒チャンスハウス」に宝クジを持参して調べてもらった。 山川さんが、ここで買った宝クジは50枚だったが、他の売り場でも50枚買っていたので、合計100枚の宝クジを持参して機械で調べてもらった、売り場の女性が調べてくれたが、この時、「今日は、いやに念入りに何回も調べているな」と思ったという。 結局100枚のうち、3300円が1枚、300円が9枚当たっているということで、合計金6000円をありがたくいただいた。売り場の女性が「外れ券はどうしますか?」と言ったので、「外れ券を持って帰っても仕方がないから、処分して…」と言い残し帰宅した。 ところが!である。帰宅後、何気なくレシートを見ると高額当選券1枚あり≠ニ記載してあるではないか!しかも「高額当選券はお返しします」と印刷されていた。これは、えらいことだ≠ニ翌日、売り場に行き、レシートを売り場の女性に見せて「どういうことなの。当り券なんか返してもらってないよ」「あら、こんなレシートあったかしら。昨日の外れ券はゴミ箱に捨てたから、まだ残っているかも知れないわ」と言って探したが、その時はすでに、ゴミ収集車が来て、ゴミをみんな車に積み込んで持っていった後だった。 こうして、みすみす5千万円の賞金を手に入れることができなかった。 これが天下≠騒がせた「5千万円ジャンボ宝クジの怪事件」報道の発端である。取材を開始すると奇怪な事実が次々と判明した。まずサマージャンボ宝クジ≠フ前後賞合わせて3億円の大当りは、よりによって千葉市内から2本も出ていた。西千葉の「西友チャンスセンター」と稲毛海岸の「万葉軒チャンスハウス」。山川氏は「万葉軒チャンスハウス」で問題の宝クジを購入していた。 宝クジ売り場の管理者は「当り券はお客様に返したと、売り場の者が言っている」と言いながら事の次第≠抗議した山川氏に8万円を届けたり、宝くじ券を配送・回収業務を請け負っている仲介業者が山川氏に「菓子折り」を届けたり、さらに本紙の取材に対しては、弁護士と称する人物から、本紙に「この件は決着済みだから取材をやめてほしい」「あなたは何が欲しくて、この取材をしつこくするのか」と、まるでこちらが悪いかのような応対に出た。この事実を稲毛新聞はありのままを報道した。 稲毛新聞をみた千葉の共同通信の記者から問い合わせがあり、全国の地方紙が一斉に配信され報道された。毎日・読売・産経・日経・夕刊フジ、各スポーツ紙は言わずもがな、週刊誌・各テレビ局のワイド番組の中でも放映されるという一大事件≠ニなった。 ローカルのミニコミ新聞の報道した事件が、このような大反響を起こしたのは空前絶後≠ニ言っていい。 その後、山川氏は売り場を相手に提訴したが、残念なことに肝心の当り券≠フ行方が突き止められず、高額当選券のレシートだけでは五千万円は受け取ることができなかった。 裁判では、売り場側の過失を認め、「ほんのわずかの慰謝料(山川氏)」で一件落着となった。 この事件で一番損したのが売り場の「万葉軒」であろう。事件が発覚してから山川氏に8万円支払い、さらに依頼した弁護士費用、加えて、裁判で負けて慰謝料まで支払わされた。 一番得したのは未換金が入る地方自治体である。山川氏は訴える相手を間違えたといっていい。 5千万円の未換金は国や千葉市に入る。都道府県知事や政令市長が運営する「宝くじ協議会」と宝くじ券を卸している中間業者を訴えるべきであった。中間業者は小額当たり券や、外れ券を回収しているが、なぜ「菓子折り」を届けたのかを疑問視すべきである。 万葉軒の売り場は経験が浅く、この事件が発覚してから、中間業者にいろいろ相談したという。当たり券の機械管理は業者が行っているが、高額当選券が出ないように、どのようにも操作することも可能だ。これを筆者は重視している。うがった見方をすれば、もし、この事件が表沙汰にならなければ、その当たり券がどこかで期限までに換金されていたかも知れない。 この「宝クジ事件」、スッキリしないまま終着を見てしまった。筆者にとって一生忘れないであろう特ダネ記事であった。 【佐藤 正成】 ※ 次回は「三越の千葉進出の裏話」を紹介します。