千葉建国塾台湾訪問・同行記/李登輝前台湾総統の会見記録
李登輝(前台湾総統) |
| 千葉建国塾(宍倉清蔵代表)一行36人は、8月23日から25日まで台湾を訪問、李登輝前総統並びに羅福全亜東関係協会長、台湾独立建国聯盟の黄昭堂主席、台湾団結聯盟蘇進強党首、朱立倫桃園県知事など台湾要人と相次いで会見した。千葉建国塾は、日本の防衛や歴史問題等を学習する民間団体で、今年の春に結成された。その学習の一環として訪問。台湾の防衛問題から政治経済など台湾が抱えている問題と日本に対する期待などを研鑚した。一行の訪台のさなか、奇しくも中国とロシア共同で台湾を攻撃目標としたとみられる軍事演習を行った。台湾の主権を尊重する千葉建国塾一行の訪問に際し、李登輝前総統は腰痛で体調が悪い中、訪問団が自宅近くのレストランで開催した茶話会にも出席され、訪台団を熱烈に歓迎。台湾政治の現状を披瀝、信頼できる日本とアメリカによる新戦略が今こそ必要であると訴え、理解を求めた。
以下は李登輝前総統の発言要旨である。【文・佐藤正成】
公に奉仕する精神私は私でない私
台湾の政治は混迷
李登輝・今日はわざわざ自宅近くまでお越しいただき感謝します。ここ一週間寝たきりでした。背骨の軟骨が出て歩くのも困難でした。早く治したいと思っている。台湾の政治は今、混迷状態に入っている。台湾の与野党が対立しゴタゴタにしている。現在これだという解決策を見出せないでいる。原因は国民党の連戦氏が訪中、60年ぶりの国交回復と共同声明を大々的に発表したことが発端だ。中国大陸と交渉できるのは台湾行政院の大陸委員会だけであり、政党が勝手に共同声明を出しても台湾政府とは一切関係ない。
台湾は中国ではない
中国は、台湾は中国の一部と主張し、国家分裂法を作り統一攻勢を仕掛けているが、これは間違いである。
台湾は歴史的に中国のものではない。清国(満州)が220年間支配。それ以前はオランダ、スペインも植民地化しようと侵略した。日本がそれを排除して50年間統治した。清国は滅ぼされて存在していない。
内部からの切り崩し
中国は軍事力で台湾を攻められないから台湾政府の内部から切り崩しにかかっている。今の台湾の政治家は中国の怖さを知らない。日本が中国と国交回復で田中内閣にパンダを贈ったが、今は反日運動をしているではないか。反日運動を見れば怖さが分かる。今こそ、台湾も日本も新しい対中国戦略を考えるべき時である。だから私は中国の揺さぶりに対抗する戦略を持たないとダメだと朝から晩まで叫んでいる。台湾の政治家も日本の政治家も戦略を持たず、その日暮らしだ。
アメリカに訴える
今のアメリカはアジアのことを知らない。ASEANのマレーシア会議でアメリカが除外された。アジアから切り離されつつある。私は来月アメリカにも行く考えだが日、台、米の新しい戦略の構築を今まで以上にキチンとやらなければならないと訴えるつもりだ。
武士道と愛国心
1999年の台湾地震の時の日記に書いているが略奪が起こらなかった。逆に助け合う人々が多かった。日本も阪神淡路大地震の時、略奪は起こらなかった。アメリカや中国では大災害があると略奪が起こる。台湾と日本は同じだ。この背景には「武士道・愛国心」という共通の精神を持っているからだ。台湾と中国とは精神文化が違う。私が総統を辞めてから台湾の政治が混迷しているが、精神を変えなければダメだと主張している。表面的な改革だけでは問題は解決しない。
経済目当てだけは危険
中国大陸は美味しい市場だと経済目当てで近づくのは極めて危険である。今の若い政治家は中国の怖さを知らないから困る。日本では明治時代に盛んに西洋文化を取り入れていた。ロンドンから帰った夏目漱石は西洋文化を批判した小説を書いた。西洋は個人主義、夏目漱石は小説で精神の転換を訴えている。私は禅を学び修行もした。人間はなぜ死ぬか。死んだらどうなるか。生きている間に公に奉仕する精神こそ日本の武士道にある。人間の価値は生きている間に公のために誠を尽くすことが大事である。石川県出身の八田與一氏は台湾の農業振興に貢献した偉大な人だ。日本人の精神は人間の誠の道≠フ武士道精神≠ェある。
新時代の台湾人
新時代の台湾は何をすべきか。我々政治家は現実を超越して社会のため民衆のために奉仕しなければならない。貧富の差は真の民主国家ではない。「私は私でない私」という理念に基づき「新時代の台湾人」という著書を著した。世界にいろいろな国がある。「人類皆兄弟」というが、国に道徳体系があるかどうか、信用できるかどうかが問題だ。道徳体系がある国は世界で日本だけだ。世界で一番信頼できる国は日本である。21世紀の世界は日本人の武士道精神を見習うべきだ。
日本は台湾を植民地にして悪いことをしたという考えがある。これは間違いであると訴えてきたのは私である。日本と台湾の100年間は何であったか。台湾は38年間戒厳令下にあった。耳があっても口はない。当時台湾では日本は台湾を植民地にして悪いことしたと吹聴された。台湾に住んでいる日本人は肩身の狭い思いをした。ある時、私は日本は台湾のために大きな貢献した素晴らしい国であると日本人に説明したことがある。このことを聞いたある日本の婦人は、これから胸を張って街を歩けると涙を流し感激してくれた。
台湾は親日国家
これから台湾と日本との関係をやり直す時代だ。台湾は世界の中で一番の親日国家である。台湾と日本はこれからもっと密接な関係に変えなければならない。日本の知識階級の一部は、中国は理解があるようなことを言っているが、表面しか知らない。中国共産党の本質は私が一番良く知っている。私が言っていることは間違いない。中国は本当に怖い国であるということを再認識して欲しい。来年は病気を治して日本へ行き「奥の細道」を歩いて見たい。(大拍手)
稲毛で空襲処理
李登輝前総統は本紙佐藤主幹の質問に関連して、戦時中稲毛にいたと、次のような体験を語ってくれた。
「戦時中、習志野高射砲学校に陸軍少尉でいた。宿舎は稲毛だった。昭和20年3月10日の東京大空襲の翌日、軍命で東京東部に出動した。被爆地の整理、被災者の救済に当たった。この爆撃の処理は大変なものだった。1999年の台湾大地震は4千人以上の死傷者が出た。この時、私は軍隊を出動させ救済の指揮を取った。遺体処理、生存者の救援など戦場跡と同じである。東京での空襲処理の経験が大いに役立った。現場を見て指揮する大切さもこの経験で分かった」。
台湾訪問特集2
イエス・ノーをハッキリ言える日本に
台湾海峡は日本の資源を守る生命線
台湾の亜東関係協会は、国交のない日本と台湾の交流を担当する機関。羅福全会長は訪台団に対し、現在の中国大陸の状況、今後の日台関係などを説明、「日本は普通の国になって欲しい」と訴えた。
亜東関係協会羅福全会長が提言(写真)
【羅福全氏の発言要旨】
◆日本から台湾に訪れる旅行客は今年6ヶ月間で45%増加。日本に行く台湾の観光客も100万を突破、実に30%増えた。台湾に来る日本観光客は全体の3分の1を占め、日本と台湾の往来は一番である。台湾は旅費を含め一人平均19万円使い日本に2000億円の経済効果をもたらしている。
◆日米安保はアジア諸国はよく理解している。イラク支援で日本のイージス艦がマラッカ海峡通過するために、山崎特使を派遣し、インドネシアやマレーシアに伺いを立てた。「そんなことで何でわざわざ来るのか」と笑われている。
◆中国と韓国は戦後処理は終わっていないと反日運動をしているが、戦後60年経過しアジア諸国は日本は平和で安全な国だと思っている。ヨーロッパ諸国も日本の立場を理解している。
◆中国の反日運動で、世界の中国を見る目が違ってきた。中国も気がついて、この秋頃から対日姿勢が変わってくる。世界が日本をどのような目で見ているかということが重要であり、いま日本に期待していることは、イエスはイエス、ノーはノー≠ニはっきり言える国になって欲しい。
◆靖国参拝や歴史教科書問題は中国と韓国だけの問題だ。世界では通用しない。中国は香港がイギリスに100年間支配されていた。なぜ植民地になったかも国民に知らせない。それが中国の歴史教科書だ。日本にとやかくいう資格は無い。
◆日本は東南アジア、中央アジア、アフリカなど世界の国々に支援(ODA)している。国連には19%(アメリカは22%)も負担金を納め貢献している。もっと強く主張しなければ世界に評価されない。
◆日本の政治家には国際的なビジョンがなく外交が下手だ。アメリカは李登輝氏を私人として向かえた。日本は中国に気兼ねして李登輝氏の訪問を拒否した。日本の国益守るということははイエス・ノーをはっきり言うことである。
◆靖国参拝に中国や韓国が反対する理由は国内問題から目を外に向けさせることが狙いだ。広州のデモは政府がやらせた官制デモ。最近は抑制しているが、あまり反日運動をやると、逆に前近代的な政府と世界の信用を失う。
◆中国は日本からODA2000億円もらっている。その3分の1を53国に配分しているが、日本から援助を受けたとは言わない。核兵器を持っている国に援助する必要はない。
◆中国の一人あたり所得は1000ドル以下。他のアジア諸国より低い。中国は戦後長年、日本の経済援助を受けているのに日本の国連常任理事国入りを反対している。ベトナムは日本を信頼しており、日本の国連常任理事国入りをアジアで一番最初に認めた。
◆日本は積極的にイエスノーをはっきり言えば世界の日本を見る眼は違ってくる。インドを含め東南アジア諸国は日本を信頼している。「普通の国家になってもらいたい」。普通の国とは憲法第9条を改正することだ。
◆中国はアジア全体に暗い影を落としている。日本はいろいろな国にカネを出しているのに支持されないのは主張がないからだ。日本は国際貢献はカネだと思っている。日本がアジアのリーダーシップを取って欲しい。
◆日本は東南アジアの貿易に積極的でない。中国はアセアンと経済協定を結んだ。日本はもっと積極的に出ることだ。日本は資源のない国だからである。
◆日本向けの船が台湾海峡を1日400隻も通過し資源を運んでいる。台湾海峡は日本の生命線だ。その海峡を守っているのが台湾であることを知って欲しい。
◆日本は東南アジアに一番経済貢献しているが存在感が薄い。中国はフィリピンやインドネシアに積極的にカネを出している。これは資源が欲しいからだ。
◆日本は優れた省エネ技術を持っている。1000ドルの生産を上げるのにCO2の排出量は0・3トン、中国は6トンも排出、日本の20倍資源の浪費国だ。
◆ 中国は軍事力が膨張し軍事大国になった。軍事力が発言力を高める圧力になると思っている。台日米の協力関係が益々重要になる。
日本と台湾は運命共同体
台湾訪問団一行は8月23日夜、海覇王と言う、海鮮レストランで台湾側と懇親会を開催した。
台湾側から友愛の会陳絢暉会長、張文芳事務局長他ほか、高雄から駆けつけた老兵許昭榮氏、訪台のお世話をしてくれた劉竹村氏、廬孝治氏。228記念館設計者の鄭自才氏、蔡焜燦氏。台湾少年飛行兵の会邱基事務局長。旧海軍少年工員高座会李雪峰会長、宋定国台北区会長、及び謝清松秘書長。そして白団の学生だった楊鴻儒氏、産経新聞河崎真澄支局長、東京新聞佐々木理臣支局長、日本人会の荒井雄吉理事。そして、今回の李登輝先生との会見の実現に奔走していただいた台湾加賀屋有限公司社長の徳光信誠氏等など総勢27名と親善を深めた。
8月24日の午前は、昭和22年に蒋介石軍が台湾人3万人を虐殺した228事件≠フ記念公園を見学。鄭自才さんが設計した記念塔の前で記念撮影した。
昼は、台湾独立建国聯盟黄昭堂主席の招待による昼食会。黄昭堂主席は、昭和医大教授を定年まで勤めた方で、昨年2月28日に台湾手護運動(人間の鎖)で200万人以上動員した台湾独立の指導者。日本に対して「自らを主張する普通の国になって欲しい」「日本と台湾は運命共同体である」と強く訴えた。
午後から、李登輝前総統を指導者とする台湾第3の政党である、台湾団結聯盟本部(台聯党)を訪問。蘇進強主席及び党幹部の熱烈な歓迎を受けた。一行に党のネクタイや書籍を贈呈、記念撮影。席上、蘇進強主席は次のように述べた。
蘇進強主席・台湾は日本の協力がなければ台湾海峡は守れない。台湾と日本は一卵性双生児の運命共同体。台湾の戦後教育は日本語が通じなくなった。相互に言葉を通じるように日本語を勉強するよう若者に勧めている。観光も順調に伸びて往来が活発になっている。日本は早く国連常任理事国になって欲しい。
8月25日は桃園懸政府(県庁)を訪問。桃園県の概要や商工業の概要をビデオで観賞。朱立倫懸長(知事)と宍倉団長が相互にお土産を進呈した。朱知事は44歳。将来の台湾のリーダーの一人と言われている。
朱立倫懸長・昨年千葉県庁を訪問。千葉県の産業や経済、観光行政について見学した。千葉県は桃園県と良く似ている。国際空港があり、大都市(台北)を抱えている。工業の成長や貿易も大きい。人口は200万人と台北市に次ぐ都市であり、これから千葉県と交流を深めるため、再び千葉県を訪問したい。
桃園懸政府
朱立倫懸長 |
台湾団結聯盟
蘇進強主席 |
台湾独立建国聯盟
黄昭堂主席 |
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